御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「俺は小夜莉に触れないって言ったのに、昨日は思わず抱きしめてしまったな。ごめん……」

 静かに声を出す雅人に、このひとはどこまで誠実なのだろうと思う。あんな状況の中、それでも小夜莉の恐怖症を気にして、心配してくれるのだ。
 小夜莉はそっと反対の手を伸ばすと、雅人の手をつかみ自分の左腕に当てた。

「小夜莉?」

 驚いたような顔をする雅人に、小夜莉はにっこりとほほ笑む。

「もう、大丈夫なんです」

 小夜莉が恥じらいながらそう言うと、雅人は目を丸くした後「あぁ、そうか……」と納得したような声を出した。

「小夜莉は昨日、自分で恐怖症を乗り越えたんだもんな」

 雅人の声は優しい。でも小夜莉は、否定するように小さく首を横に振った。
 確かに昨日、小夜莉は恐怖を乗り越えた。男に腕をつかまれ、いつもだったらパニックになり気を失っていただろう状況で必死に自分を奮い立たせた。
 でもそれは、雅人のためだったから行動できたのだ。そして抱きしめられて平気だったのも、相手が雅人だったからだ。

 小夜莉は再び顔を上げると、不思議そうな顔をする雅人の瞳を見つめる。

「違うんです」
「違うって?」
「私はもうだいぶ前から、雅人さんだけは平気になっていたんです」

 小夜莉の声に、雅人は言葉を失ったように口を閉ざす。しばらくして「……いつから?」とようやく口を開いた。
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