御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「ごめんなさい」

 もう一度小夜莉が口を開き、零れた涙を拭おうと手を上げたとき、左腕に触れていた雅人の指先に力がこもる。
 不思議そうに顔を上げた小夜莉の目線の先で、涙に滲んだ雅人の顔が優しくほほ笑んだ。

「小夜莉、ちゃんと君に触れてもいいか?」

 突然発せられた言葉に、小夜莉は思わず「え?」と聞き返してしまう。まじまじと見つめると、雅人の顔はやや照れているように見えた。
 小夜莉は戸惑いながら、こくりとうなずく。
 すると雅人は小夜莉の両手を優しく握った後、腕を伸ばして小夜莉の頬に触れる。長い指先は小夜莉の頬の涙を丁寧に拭った後、そのまま小夜莉を包み込むように抱きしめたのだ。

「ま、雅人さん……」

 小夜莉は雅人の胸に顔をうずめながら、ドキドキと声を出す。自分の鼓動と雅人の鼓動が重なって、大きな音を叩き出すようだ。雅人は指先を小夜莉の耳元にあてると、そのままなぞるように髪をすくった。

「ずっとこうして君に触れたかった」

 雅人の吐息がかかり、小夜莉の心臓がドキッと跳ねた。

「怖くない?」

 雅人に聞かれ、小夜莉はこくりとうなずく。怖さなんてひとつも感じない。好きなひとに抱きしめられると、こんなにも心が安心して満たされるものなのだと初めて知った。
 でも小夜莉の中に疑問が浮かぶ。小夜莉と雅人はたまたまお互いに婚約者を演じてから始まった契約夫婦だ。たとえ小夜莉が雅人を好きだと伝えたからと言って、どうしてこんなに愛しそうに小夜莉に触れるのだろう。
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