御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「小夜莉さん、少し庭でも見ないかね」

 父親はそう言うと、目の前のガラス戸を開きバルコニーに出る。小夜莉は戸惑いながらもそのあとについて外に出た。
 十月の風はとても爽やかで心地よい。広い芝生に目を向けると、辺りを囲むように綺麗な花やハーブが植えられていた。

「今時期は秋バラが見ごろだからね」

 父親が穏やかな声を出し、小夜莉は見事に咲くオレンジや濃いピンク色のバラに目を向けた。可憐に咲く姿は、まるでここまで甘い香りが漂ってきそうだ。

「小夜莉さん」

 すると急に父親が改まって名前を呼ぶ。

「君にはお礼を言わなければいけないんだ。御子柴を守ってくれて本当にありがとう」

 突然頭を下げられ、小夜莉は驚いてしまう。てっきり雅人との結婚をなかったことに、などと言われることを覚悟していたのに、こんな風に頭を下げられるとは思ってもみなかった。

「お、お父様、顔を上げてください。私はただ、雅人さんの役立ちたいと思っただけなんです」

 慌てる小夜莉ににっこりとほほ笑むと、父親は芝生の脇にあるガーデンチェアに腰かける。小夜莉も促され、パラソルの下の重厚感のある椅子に座った。

「君に会社を救われるのは二度目だね」
「え?」
「地方工場の汚染水騒ぎの時、報告書をまとめてくれたのは君だっただろう?」

 父親の声に小夜莉は思わず「えっ」と声を上げてしまう。

「ご存じだったんですか?」

 驚く小夜莉に、父親はうなずくとにっこりとほほ笑んだ。
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