御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「あの汚染水騒ぎの時、どうも雅人が目をかけている研究所の若い職員がいるようだと報告を受けてね。君には失礼だが、雅人は御子柴の跡取りだ。変な虫がついたら大変だと、君の情報は一切雅人に悟られないように手を打ったんだ」

 はははっと豪快に笑う父親に、小夜莉は目を丸くする。確かに報告書に書かれた小夜莉の名前は所長によって書きかえられていたが、それにしてもなぜ雅人がいくら調べても小夜莉の名前すらわからなかったのか疑問だったのだ。

(そういう裏があったんだ……)

 小夜莉はやっと納得する。でもそれは、子を思う親の気持ちとしては理解できる。

「だからね、雅人が婚約者として君を連れてきたとき、私は本当に驚いたんだよ。あれから五年も経っていたしね。そこまでの強い想いだったのかと驚かされた」

 話を聞きながら、初めて食事会で父親に挨拶した日のことを思い出す。小夜莉が名乗った時、確かに父親は驚いたような顔をしていた。

「でも、なぜ結婚を認めてくださったんですか?」

 小夜莉は疑問を口にする。つまり父親は小夜莉が自社の研究員だと知っていて、結婚を認めてくれたのだ。
 すると父親は雅人にそっくりな口元を引き上げた。

「汚染水騒ぎの後、雅人は明らかに変わった。仕事に対する姿勢が変わったんだ」
「仕事に対する姿勢?」
「あぁ。それまでの雅人は、後継ぎという自分の境遇を受け入れて、御子柴のために自分自身を押し殺して生きているような所があった」

 父親の言葉に小夜莉は静かにうなずく。
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