御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「小夜莉、雅人さん、いらっしゃい。疲れたでしょう?」

 母はそう言うと満面の笑みで小夜莉の手を握った。

「さぁさぁ、むさ苦しい家ですけど、雅人さんもどうぞ」

 明るい母の声に促され、小夜莉は雅人を連れて古い家の門をくぐった。この家は元々母の実家で、母は離婚後小夜莉を連れてこの家に戻った。祖父母は早くに他界していたため、古いこの家で小夜莉は母とふたりで暮らしてきたのだ。
 靴を脱いで廊下を進むと縁側が見えてくる。

「波の音が聞こえるな」

 雅人の声に小夜莉は「えぇ」とほほ笑んだ。
 縁側の窓をガラガラと開けると目の前に海が広がっている。穏やかな凪いだ海は昔からひとつも変わっていなかった。

「ほらほら、風が冷たいでしょう? 温かいお茶を入れたからふたりとも座って」

 母に促され、小夜莉は雅人と並んで座布団に座る。急にお客様になったみたいで気恥ずかしくなった。それからは母といろんな話をした。騒動のことを話した時はさすがに驚いていたが、もう落ち着いたのだというと安心した顔を見せた。

 すると突然、母が「あっ」と声を出す。

「今日のお夕飯、肝心なお刺身を買うの忘れちゃったわ。小夜莉ちょっとそこの市場まで買いに行ってくれる?」

 ややわざとらしい母の言い方に、小夜莉は小さく首を傾げる。母は昔から嘘が下手だ。

(もしかしたら、雅人さんと話したいのかな)

 小夜莉は「わかった」と笑顔で答えると、雅人に目配せをして立ち上がる。そしてふたりを残して外へと出た。
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