御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
* * *

 波の音がすぐ側から聞こえる。海沿いを歩いていた小夜莉はそっと顔を上げると、隣をゆっくりと歩く雅人の横顔を見つめた。
 あの後、市場で買い物をして帰ってきた小夜莉は、笑顔の母と雅人に迎えられた。その母の目が満足げに、でも真っ赤に腫れているのを見て、小夜莉は涙をこらえながらふたりに笑顔を向けたのだ。

『夕飯の準備ができるまで、ふたりで散歩でもしてらっしゃいよ』

 小夜莉の顔を見た途端、再び泣きそうになったのか、母がこちらに背を向ける。小夜莉も胸がいっぱいになりながら、雅人を連れて海岸へと出てきたのだ。
 しばらく進むと岬の先に灯台が見えてくる。

「あれは?」

 雅人が小夜莉を振り返り、小夜莉は「あぁ」と声を出した。

「あの岬に灯台があって、その近くに大きな鐘が設置されてるんです」
「鐘?」
「はい。よくチャペルにあるような鐘です。だから学生の頃とか、恋人ができると、みんなこぞってあそこに行くんですよね」

 小夜莉はくすりと肩を揺らす。あの岬はこの辺りでは珍しいちょっとした観光地で、灯台の近くに設置された鐘は〝しあわせの鐘〟と呼ばれ、デートスポットにもなっているのだ。

「小夜莉も行ったことがあるのか?」

 急に雅人の声が低くなったような気がして、小夜莉は慌てて両手を振る。
< 131 / 135 >

この作品をシェア

pagetop