御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 すると床にへたりこむ小夜莉を見て、申し訳なさそうに直志が口をひらく。

「ごめんね、小夜ちゃん。あの相談所も知り合いに頼まれて入ってただけで……。でもさ、小夜ちゃんが俺とキスする時、自分がどんな顔してるか知ってる?」
「はい……?」
「あの顔、正直萎えるんだよね。すぐビクビクするし。それとその……」

 直志はそこまで言うと、躊躇うように口をつぐむ。

(まだ何かあるの……?)

 この先に何を言われるのか怖い。
 小夜莉が瞳を震わせながら直志を見上げようとした時、再びきゃははと高い笑い声が響き、女性が小夜莉の前に立ちはだかった。

「直くんは、あなたみたいなダサい女を連れて歩くのが恥ずかしいんだって。私のことはいつも可愛いくて、みんなに自慢できるって言ってくれるもの」

 女性はロングヘアをさらりとなびかすと、甘えるように直志に寄り添う。
 小夜莉の頬を涙がポロリと零れ落ちた。

「可哀想だしさ、今日だけはと思って来たんだけど。もうこれっきりにしよう」

 直志は申し訳なさそうにそう言うと、騒動に集まってきた人々の視線を避けるように、女性の手を取って足早にその場を後にする。

「じゃあねぇ」

 女性はひらひらと手を振ると、肩を揺らしながら直志の腕に縋りついた。
 ひとり取り残された小夜莉の周りには、まき散らされた荷物と、集まったひとたちの憐みの目線があるだけだ。
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