御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 小夜莉だって今日、同じように失恋した身だ。
 そんな自分が婚約者を演じたことで、ここにもひとり失恋した人が出てしまうとは、皮肉なようにも感じた。
 それに美幸は明らかに小夜莉たち一般人とは違うセレブな装いをしている。
 きっと雅人と並べばお似合いのカップルになるだろう。

(やっぱり雅人さんは、美幸さんとお見合いした方がいいんじゃ……)

 小夜莉が顔を上げた時、レストランの方から雅人が司と話しながら歩いて来る声が聞こえた。

「では失礼いたしますわ」

 美幸はにっこりとほほ笑むと、こちらへやってくる雅人と司に深々とお辞儀をして去って行った。

「あれ? 今のって……」

 小夜莉の元にやってきた司が首をひねる。
 すると雅人が美幸の後ろ姿を見ながら小さく息をついた。

「面識はないが、NKR(エヌケーアール)株式会社の社長令嬢だ。あらかた俺の見合い相手にでもしようとしてたんだろう」

 辟易(へきえき)としたように言う雅人の言葉を聞きながら、小夜莉は思わず「NKR⁉」と叫んでしまう。
 NKR株式会社と言えば、元はサプリメント会社として起業したが、その後化粧品業界に進出。そこで出したオールインワンファンデーションが大ヒットし、一躍世に名をとどろかせた超有名企業だ。様々な著名人や政治家とも懇意にしているらしく、その影響力は旧財閥企業である御子柴グループに迫る勢いと聞く。
 小夜莉のような研究者の中には、御子柴化学ではなく、あえてNKRの研究職を希望する者も後を絶たない程だ。
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