御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 エレベーターに乗り込んだ小夜莉は、そっと前に立つ雅人の背中を見上げる。
 あの後、司は表に車を用意すると言って先に降りて行った。
 シーンと静まり返った個室で、雅人がゆっくりと振り返る。

「さっき父と話をして、来週早々にも俺の御子柴化学への社長就任が発表される予定だ」
「本当に、社長になるんですね」
「あぁ、それが俺の希望だったからな。でも父を説得できたのは、君のおかげだ。ありがとう」

 にっこりとほほ笑む雅人に、小夜莉は「そんな」と小さく首を振る。
 でもなぜ雅人はそんなにも化学の社長にこだわるのだろう?

「あの――」

 不思議に思った小夜莉は小さく口を開く。
 でも途中階で停止したエレベーターの扉から乗り込んできた人影に、小夜莉は息を止めると口を閉ざした。

「もう、なんでレストランじゃだめなのぉ」
「ここは高いんだよ。さっきルームサービス頼んだだろ」

 身体を寄せ合うようにエレベーターに乗り込んできたカップルを見た瞬間、小夜莉は身を固くすると壁際に顔を背ける。

(直志さんと、さっきの女性だ……)

 小夜莉の脳裏にロビーでの出来事が蘇り、ふらっとめまいを感じた。
 ふたりは自分たちの世界に入り込んでいるのか、こちらに気がつく様子はない。
 でも雅人はふたりの存在に気がついたようで、そっと小夜莉を自分の背後に庇うように移動する。
 雅人の優しさに心が救われる思いがした。でもその時、女性が「あ!」と華やいだ声を上げる。
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