御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「やっぱり、随分と印象が違うな」

 小夜莉の正面に立った雅人が自分の目元を指さしながら声を出す。小夜莉ははっと背筋を正すとメガネの縁をぐっと押した。

「ご挨拶が遅れまして申し訳ございません。第一研究室主任の神崎小夜莉です。それと、先日はありがとうございました」

 小夜莉は一気にそう言うと、深々と頭を下げる。小夜莉の硬い声が響き、雅人は一瞬呆気に取られたような顔をしていたが、急に噴きだすように笑い声をあげた。

「ご丁寧にありがとう。じゃあ神崎くん、早速なんだが……」

 雅人はそう言うと小夜莉をソファに座るように促し、自分もその向かいに腰かける。

「今日は式の日取りを決めたいと思って、君を呼んだんだ」

 にっこりとほほ笑む雅人に、小夜莉はキョトンとして顔を上げた。

「……式、ですか?」

 首を傾げながらもごもごと口を開く。式とは何だろう?

(何か研究発表会とか予定されてたっけ? それとも何かの計算式?)

 全く思い当たる節がない。小夜莉は目線を泳がせながら、正面でほほ笑む雅人の整った顔を窺う。

「あの……式って、何の式でしょうか?」

 すると雅人がそっと目元を細めた。

「決まっているだろう? 俺と君の結婚式だ」
「け……結婚式⁉」

 思わず叫び声を上げる小夜莉に、雅人が綺麗な顔を覗かせる。

「単刀直入に言おう。俺と結婚して欲しい」
「はい⁉」
「プロポーズのつもりだが?」

 涼し気に言ってのける雅人に、小夜莉はソファの背もたれに倒れ込んだ。あまりの突拍子もなさに口から泡でも吹きだしそうだ。単刀直入にもほどがある。こんなムードもへったくれもないプロポーズなんて聞いたことがない。
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