御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「この事は俺と司以外誰も知らない。もちろん父も」
「そんな大変なこと……」
「幸い君はここの研究員だ。研究所の内情にも詳しい。結婚相手には打ってつけってわけだ」

 雅人の厳しい表情に思わず息を呑む。

「だから君もビジネスライクに考えてくれて構わない。これは目的を達成するまでの契約結婚だ」

 静まり返った部屋に雅人の重い声が響き、小夜莉は身を固くした。自社の社長にこんな重大事項を打ち明けられて、やすやすと断れるわけがない。

(どうしたらいいの……)

 戸惑う小夜莉の瞳がわずかに揺れ出した時、雅人が急に優しい顔を見せる。

「君が結婚すれば、お母さんも安心するはずだ」

 ダメ押しをするかのような雅人の言葉に、小夜莉の脳裏に母の嬉しそうな顔が浮かぶ。
 雅人を紹介した時、母は心底安心したような顔をしていた。それこそ今頃は結婚式で着る留袖の手入れでもしているかも知れない。母は長年の心配事が消えて、やっと肩の荷が下りると喜ぶだろう。

「でも、だからって……。もし私が、裏切り者だったらどうするんですか……?」

 小夜莉は雅人を試すように小さく声を出す。でも雅人は一切動じずにほほ笑むと、そっと肩を揺らした。
< 44 / 135 >

この作品をシェア

pagetop