御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「いや、いいんだ。君の研究に役立てばと思って用意しておいたんだよ」
「え? 私のために?」
「あぁ。報告書を読んでいて、つい最近、研究室の雑誌購入が廃止になったと書いてあるのを見かけたからな」

 雅人はパラパラと雑誌をめくると小夜莉が気になっていた論文のページを開く。

「ほら、この論文とか、君も興味あるんじゃないかと思って」

 雅人が指さす雑誌を覗き込んだ途端、小夜莉は思わず前のめりに大きく首を振った。

「そ、そうなんです! この論文すごくて……人工股関節手術の従来のプレート素材を摩耗処理するんじゃなく、素材自体に他の材料を複合して寿命の長い新素材を作るって発想が――」

 興奮して顔を上げた小夜莉の瞳は、こちらを見る雅人の瞳とばっちりと合う。雅人の綺麗な顔が目の前に迫り、一気に頬を熱くした小夜莉は慌てて顔を背けた。

「す、すみません。私ってば興奮して」

 そう言いながら距離を取ろうとしたのに、今度は自分のスリッパにつまずいて足をもつれさせてしまった。

「きゃ」

 大きく傾く小夜莉の腕を、咄嗟に手を出した雅人が取る。でも雅人はすぐにはっとすると小夜莉の腕からパッと手を離した。

「すまない、大丈夫か?」

 優しく顔を覗かせる雅人にうなずきながら、小夜莉は掴まれた腕を反対の手でそっと触れる。
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