御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 他の男性には今でも恐怖を感じるのに、いつからか雅人に対してだけは反応が変わっていた。雅人のそばに寄ったり、触れたりした時のドキドキは、恐怖心からくる鼓動の速さとは明らかに違っていたのだ。
 小夜莉はスマートフォンを取り出すと、母の作ってくれたストラップに触れる。ふたつの貝は揺らすとカサカサとこすれて音を出した。
 しばらく貝に触れていた小夜莉は(でも……)と顔を上げる。

(たとえ私が雅人さんに想いを寄せていたとしても、それは押し込めなきゃいけない。だって雅人さんには目的があるんだもの。そしていずれ私たちは別々の道を歩んでいく……)

 小夜莉は真っ暗な窓に映った自分の姿を見つめながら、両手をきゅっと握りしめる。
 雅人は御子柴グループの将来を担う大切なひとだ。契約妻として自分の役割を全うすることが、小夜莉が雅人のためにできる一番のことなのだと思う。

(私は雅人さんの役に立ちたい)

 雅人が目的を達成するということは、ふたりの契約結婚の終了を意味している。それは小夜莉にとっては辛いことかもしれない。でも初めて本気で好きだと思ったひとのためならば、たとえ想いは叶わなくてもいいのだと思える。

(そう思えるひとに、初めて出会えたんだ)

 小夜莉は両手を握りしめると、心を決めたようにその手を胸の前で合わせた。
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