御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
* * *

 バタンと扉の閉じる音が聞こえる。やけに耳に響いたその音の余韻を感じながら、雅人は戸惑ったように口元に手を当てるとソファに腰を下ろした。
 最初はほんの冗談のつもりだった。小夜莉が媚薬をもらったなどと言うから、少しからかってみたくなったのだ。まだ自分にそんな遊び心が残っていたのも驚きだったが、それ以上に驚いたのは小夜莉の反応だ。

 雅人は静かに自分の手を見つめる。手のひらには小夜莉の華奢な指先の感覚が残っていた。
 リビングを飛び出す前に小夜莉が見せた顔。あの顔は、雅人に触れて恐怖を感じた顔つきではなかった。もっといじらしい、まるで恋をしているような顔に見えたのだ。

「もしかして小夜莉は……」

 雅人は小さく声を出す。
 小夜莉との同居生活が始まって以降、雅人は小夜莉とどう接するのがよいのか迷っていた。どう距離を縮めるべきか決めかねていたのだ。
 それは引っ越しの初日に、小夜莉を怖がらせてしまったことも理由の一つだ。あまり強引なことをして、完全に心を閉ざされてしまったら大変だと思ったのだ。

(でも……)

 雅人はふと顔を上げる。

(もしかしたら、小夜莉と俺との距離は思っている以上に縮まっているのか?)

 そう思ったとたん、雅人は自分を抱えて歩く小夜莉の姿を思い出す。小夜莉の湯上りの髪が揺れるたび、フローラルの甘い香りが漂い、雅人は小夜莉を抱きしめたくなる衝動を抑えるのに必死だった。
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