御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
 その後事態は無事に収束。本社に戻った雅人は彼女のことを調べようとしたが、驚くことに彼女の名前は一切表に出てこなかった。調査は所長の指示の元、主任研究員が行ったことになっており、彼女が作成した報告書は所長の名前に書き変わっていた。つまり手柄はすべて所長のものになっていたのだ。
 雅人は憤慨したが、所詮自分は御子柴化学の人間ではない。彼女のことは何もわからないまま時間だけが過ぎ、雅人自身も海外での勤務になってしまった。

(だからこそ、彼女を見つけたときは信じられない気持ちだった)

 今回、御子柴化学への社長就任にこだわったのも、あの時の彼女を見つけるためだった。
 そしてあの夜、ついに雅人は彼女が皆から能面と呼ばれる神崎小夜莉だと知った。小夜莉は全く雅人のことを覚えていなかったが、雅人にはすぐにわかった。そして男性恐怖症をかかえ、それでも母のために結婚をしたいと思っていることも同時に知ったのだ。

(だから強引に契約結婚の話を進めた)

 契約結婚を持ちかけたとき、小夜莉は明らかにためらっていたと思う。男性恐怖症があるのに、よく知りもしない雅人との結婚など、躊躇するのは当然だ。でも、雅人はそれをわかったうえで、小夜莉にYESと言わせたのだ。

(やっと見つけたんだ。絶対に手放したくない……)

 雅人は小夜莉に握られた手をぐっと握りしめる。

(俺も相当執念深いな)

 自嘲するように笑いながら、雅人はふと手に持っていた香水の瓶を見つめる。美幸からもらったというそれは、非売品らしくラベルなども簡易なものがつけられている。
 それにしても、美幸はなぜただの香水を〝媚薬〟などと言って小夜莉に渡したのだろう?
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