御曹司社長は恋に臆病な契約妻を極上の愛で囲う
「本当に、驚きましたわ」

 すると突然、所長の後ろから若い女性の声が聞こえてくる。小夜莉は驚いたように顔を上げた。

「お久しぶりね、小夜莉さん」

 そう言って現れたのは美幸だ。美幸はにっこりとほほ笑むと、所長の隣に並んだ。

「どうして、あなたがここへ……?」

 小夜莉は顔を強張らせたまま声を出す。美幸はくすくすと肩を揺らした。

菅井(すがい)所長はね。私の叔父なんですの」
「叔父⁉」
「母方の叔父と言えばわかるかしら?」

 美幸と所長の顔を交互に見た小夜莉は、はっとする。

(所長とNKRがつながっている……?)

 すると美幸がくすりと口元を引き上げた。

「おわかりになった? 伯父さまはね、御子柴化学の最新の機器を使って、こっそりNKRの研究をしてくださっていたのよ。だってその方が、高い研究費も払わなくて済むし、お得でしょう?」

 くすくすと笑う美幸に、小夜莉は愕然とする。所長はいつも自分の研究で忙しく、業務はほかの研究員に回ってくることが多かった。それがまさか、他社の研究をしていたとは誰が想像しただろう。

(なんて悪質な……)

 小夜莉は怒りで震える手をぐっと握りしめる。自分たちの研究は、製品を使うひとたちの暮らしがより豊かになるためにと、信念をもって取り組んできた。それなのに、この研究所を間借りするように、自分たちの利益だけを考えて研究をしていたひとがいるなんて許せない。

(研究者の風上にも置けないひとだ)

 怒りをあらわにする小夜莉に、美幸は悔しそうに唇を噛むとキッと怖い顔を見せる。
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