傷付いた心を癒すのは 〜男性が苦手な私の心を癒してくれたのはお隣さんでした〜
 その、ガツガツしていない人畜無害そうな格好を見て私は安堵の息を吐き出すと、極力腕を限界まで伸ばして彼に洗濯物を渡した。

「ありがとうございます。洗濯物を取り込んでたら、手を離しちゃって。……今日、風強いですよね」
「……そう、ですね」

 まさか、この流れで会話が続くとは思わず、どきまぎしながら返事をする。

 ――そうだ、この前のお礼と挨拶をしなくちゃ。

 そう思うのに、うまく声が出なかった。

「……ここに住んで長いんですか?」
「えっ、と……はい。まぁ……」
「へぇ、そうなんですね。ここ、駅から少し遠いけど、静かでいいところですよね」
「……ですね」
「スーパーも近いし、飯屋も割と多いし」
「……わかります。生活するのにちょうどいい立地ですよね」

 なぜだろう。
 顔があまり見えないからだろうか。それとも仕切りという物理的な距離があるからだろうか。

 彼からパスされる問いかけには、うまく答えられている。といっても、相槌を打つ程度のものだけれど、私にとっては大きな進歩だった。

(いまなら、ちゃんとお礼が言えるかも……)

 そう思って、口を開いたときだった。

 隣からぐうぅっと大きなお腹の虫が鳴って、私は口を開けたまま固まってしまった。
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