傷付いた心を癒すのは 〜男性が苦手な私の心を癒してくれたのはお隣さんでした〜
「ううん。急に近付かれるとびっくりしますよね」

 彼が気にするなと言わんばかりにフォローを入れてくれる。
 再び台車を押そうとして、取っ手を掴んだ瞬間、彼と指先が触れ合った。

「あっ……」
「すみません。俺も人のこと言えないな……」
「いえ、大丈夫です。片瀬さんは、気になりません」

 そう言ったら、なぜか彼が足を止めたまま私を見る。
 気付けばするりと手を握られていて、指先を動かせなくなっていた。

「それは、どうしてですか?」
「えっと……」
「俺に、慣れたから?」

 ぎゅうっと手を握られるも、不思議と嫌悪感はない。ただ、手を握られているという事実と見つめられているという事実に、心臓が早鐘のように音を立てて苦しくなる。

(慣れたから……もあるかもしれないけど、彼に触れられていると安心する……)

 緊張もするけど、同時に安心感もあるのだ。それと、わずかな期待感もある。もっと、触れてほしいという期待感が。

 そう自覚したとき、ぼんっと脳みそが沸騰して頬が熱くなった。

「あ、の、私……」
「困らせてごめんね。でも理由を考えておいてください」

 そう言って彼の手が私から離れていく。

 そのあとの彼は普段と変わらず穏やかで、私はやっぱりさっきの温もりを名残惜しく思っていた。




< 127 / 172 >

この作品をシェア

pagetop