傷付いた心を癒すのは 〜男性が苦手な私の心を癒してくれたのはお隣さんでした〜
「そろそろまたお腹が鳴りそうなので部屋に戻りますね」
「あ、はい」
「おやすみなさい」
「お、おやすみなさい」

 私も彼に手を振り返し、静かになったベランダで先ほどまで彼が立っていたところを見つめる。

 不思議と、彼とは会話を続けることができる。
 圧がない見た目と互いの間を隔てる仕切り板が少しだけ私に勇気を与えてくれるのか、職場で男性と話す時よりもスムーズに会話ができていた。

(いつもなら私が身構えているのを見て、向こうから離れていくのに……)

 まるで磁石のS極同士が反発し合うように、お互いに距離をとってしまう。

 そのせいで、今では自分が男性社員から怖いと言われていることを知っている。
 後輩の井上さんも私の前ではおだてるようなことを言っているけれど、裏では私の陰口を叩いていることを知っていた。

『先輩、男性の前だと超怖くて。たまにその状態のまま私に話しかけて来るときがあるから怖いんだよね。てか、あの歳で男性を寄せ付けないって、高嶺の花気取りかよ! っていう』

 そんなふうに言われているのを聞いたときはショックを受けた。
 だけど、井上さんに圧を与えている瞬間がないとも言い切れないので、彼女のことを悪く言うつもりはない。

 むしろ、男性に対してうまく対応できない自分が悪いのだ。だから、必要以上に周りから怖がられてしまう。

「いつも、目の前に仕切りがあったらいいのに……」

 そしたら彼と会話するときと同じように、誰の前でも滑らかに口が動いてくれるかもしれない。

 そんなことを思って、私はマンションのすぐ下の道路を走る車の行き先を目で追った。



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