傷付いた心を癒すのは 〜男性が苦手な私の心を癒してくれたのはお隣さんでした〜
「風が冷たくなってきましたね……。風邪を引かないうちにそろそろ戻りましょうか」
「そうですね」
「ではまた明日、おやすみなさい」
「おやすみなさい」

 最後は必ず仕切り板から身を乗り出して、お馴染みのもっさりヘアーと黒縁眼鏡で手を振ってくれる。
 そのなんとも言えないゆるいスタイルを見るのが癖になっていて、私は片瀬さんの顔を見るたびに今日一日が無事に終わっていくのを実感できた。

(っていうか私、まだ名前すら言えてないんだけど……)

 今日も今日とて彼に手を振って別れてから、自己紹介できていないことに気付く。

 向こうも特別尋ねてこないし、むしろこの距離感がちょうどいいのかもしれない。

 ちょっと顔馴染みの世間話をする隣人。それくらいが、私たちにとっては居心地がいいのかも。

 と、そんなふうに思っていたはずなのに――。





「水嶋さん、ちょっといいかしら?」

 仕事中、髪を一本にまとめ、茶色いフレームの眼鏡をかけた女性のリーダーから声を掛けられて作業の手を止める。
 新たな案件を依頼したいとのことで、急遽このあと営業部の人と打ち合わせをしてほしいと告げられた。

「営業担当は、この前名古屋から異動してきた片瀬くんだから、よろしくね」
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