道しるべみたいな恋だった
「忘れられない恋のエピソードとして出すのも(しゃく)に触るし、なんかこういう恋をしてきたんだって上司含め企画会議参加者に思われるのも嫌だし。いっそ適当に作り話でもしようかなって思ったんですけど……今、私が頑張りたいのはこの会社なんで。過去も利用出来るならしようかな、と」

笑い話のように楽しそうにそう話して、笹野さんが視線を上げたのを見て、まつ毛がよく見えたとしても、やっぱり顔は上からじゃなくて正面から見た方が良いに決まっているなという考えが頭をよぎった。
 
正直、格好良いと思った。

私はそうなれなかったのに、彼女は自分が浮気された話まで利用してやるとはっきり言える。

「それに、案外彼氏に浮気された女性が泣いた後に、翌日には可愛いメイクをしていつも通り出社するってCMも面白くないですか」

クスクスと笑い、軽くそう話す笹野さんに、どう言葉を返せば良いか頭を悩ませた。

実際はわずか数秒間だけれど、なんと返せば良いのかをしっかり考えた。

「私はそんなCM見たら、格好良くて買いたいってなるかも」

やっと言えた返答は、本心だった。しかし私の返答を気を遣って言ってくれたと思った笹野さんは、「ふふっ、ありがとうございます」とペコっと頭を下げた。
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