サイコ医局長の検体
「あ、アルマジロトカゲ……?」
「ええ。年中空調完備は無論、餌は生きた栄養価の高いコオロギしか食べないため、コオロギの量産にも費用がかかるんですよ。」
「こ、コオロギの量産っ……?」
「実はここだけの話、アルマジロトカゲ専用の部屋とコオロギ専用の部屋があるんですよ。」
背筋がゾワッと粟立つ看護師が、つい持っていたパスタサラダを落としそうになる。
反射神経のいい亜月は、すかさずパスタサラダを受け止めた。
「ですから彼らを最高の環境化で飼育するためには費用がかさむんです。ちょっとあなたに奢る蕎麦代は痛手になるかなと。」
「そ、そうなんですね! それなら私はそのパスタサラダでけっこうです!」
亜月の手からパスタサラダを取り上げた看護師が、愛想笑いも忘れてレジへと走っていく。
意訳すれば、アルマジロトカゲよりも自分は価値がないと言われているようなもの。
あんなにかわいくねだって奢ってくれなかった医師は、十三郷が初めてだった。
たかが蕎麦一枚でなんともいたたまれない。
一方の十三郷は、これでようやく亜月と2人きりになれたと、安堵の笑みを漏らす。
が、やはり亜月には自分の想いは伝わっていないらしい。
「……すみません十三郷先生。私が邪魔をしてしまったばかりに。」
いつのまにやら買い物かごの中に、睡眠打破3本を追加していた亜月が、十三郷に向けて謝罪をした。
看護師との仲を、私が引き裂いてしまったといわんばかりに。
「代わりといっちゃなんですが先生、お詫びに栄養剤と睡眠打破を進呈します。」
「入りませんよ。それよりも嫉妬ぐらいして欲しいものですねえ。」
「嫉妬ですか。私だって嫉妬の一つや二つくらいしますよ。」
「それは、今僕の腕に絡んでいた看護師に嫉妬したという解釈でいいんですね?」
「いえ、アルマジロトカゲにですよ。年中冷暖房完備、特質な食事の量産、最高の環境化で育てられているなんて羨ましい限りです。」
「それは嫉妬ではありません。羨望ですね。」
「間違えました、羨望ですね。」
ああ、と納得する亜月に、心のため息を隠せない十三郷。肩を上下させた。