サイコ医局長の検体
3.貫亜月の受難
貫亜月のフットワークは軽い。
「貫さん、悪いんだけど僕今日、協議会で忙しいもんだから、設備点検の立ち会いをお願いできるかな?」
「何時からですか?」
「11時からだよ。あ、その前に教務部へ行って研修医の一覧データをもらってきてほしいんだけど、」
「分かりました。」
「あとついでに院内各科の異動情報もまとめておいてもらえると助かるな。」
「分かりました。」
「僕は協議会終了後、そのまま直帰予定だからよろしくね〜。」
総務部部長 岩井が、課長である亜月に指示を出す。
部長である岩井は、会議への参加が主な仕事である一方で、課長である亜月は細かな実務に追われていた。
同じ部署で働く部下は、岩井と亜月以外、派遣とパート職員で構成されている。
アウトソーシングの時代に、大学病院で働く正職員は極わずか。
そのため、実務の取りまとめはほぼ亜月に任せられていた。
(松元さんには消耗品の発注をお願いして、古下さんには事業計画書の申請書の確認をしてもらって……)
各社員に指示を出し、亜月は部長にいわれた通り、今日も院内を走り回る。
研究棟の教務部で研修医一覧表をもらい、診療棟の事務部に行こうとした時だった。
「貫課長! お疲れ様です!」
亜月を呼び止めたのは、脳神経外科の専門医、荻窪橙吏30歳だ。
まだ今年から専門医になったばかりの荻窪は、当院の外来と、非常勤として外勤を担当している。
黒縁メガネに、サイドに流した焦げ茶の髪。目鼻立ちのハッキリした若手医局員とあり、女性看護師からは人気のある医師だ。