サイコ医局長の検体

なぜ十三郷が自分にあれほど興味あるのか、それはどう考えてもオモチャにしやすいからだろう。

彼は幼少期から天才的な知能で周りを驚かせていたという。

彼の両親が何気なく見ていた戦争映画の中に現れたモールス信号の場面。

十三郷はわすが4歳にして、モールス信号を映画の作中のみで解読した。

祖父が電球を変える作業を見て、直列、並列つなぎを理解した。

ギフテッドとまで診断されたわけではないらしいが、ほぼそれに近い。

そんな天才が、なぜ自分のような落ちこぼれに興味を示すのか。何度考えても、やはりただの好奇心だろう。

(意図が分からないほど怖いもんはないな……)



4人兄妹の末っ子として生まれた亜月は、兄たちほどの知性はないため、医療の道には進めなかった。

薬学部でも、看護学部に入れるわけでもなく、いわゆる世間一般の平均値。

容姿が飛び抜けていいわけでもなく、学生時代に告白されたことは一度もないし、スポーツは中の下だ。

劣等感だけ抱えてここまできてしまった。

気付けば、人を立てることばかりに長けていた。

そのため教授の妻が乗り込んできても、平然と対処できるようになってしまったのだ。


もうすぐ業者の設備点検に立ち会う時間だ。

病棟に戻り、3階にある総務部へと急ぐ。

エレベーターは一番上の14階に止まっているため、非常階段を使うことにした。


「貫さん、お疲れ様です!」
「お疲れ様です。」


非常階段を登っている途中、上から降りてくる看護師とすれ違った。

挨拶を交わし、タイトスカートにも関わらず、大股で階段を駆け上がっていく。

しかしその途中、シューズが段差で滑り、手すりに掴まれないまま、落ちてしまったのだ。


「貫さん?!!」


さっきすれ違ったばかりの看護師が、慌てて駆けてくる。


「大丈夫ですか?! 立てますか?!」


自分でもどうやって転んだかよく分からない。少しだけ顔をしかめた亜月は、手すりを掴み、立とうとする。


「すみません……どうやら足をひねってしまったようで……っ、」

「ああ大変! 足首が腫れてる!」


亜月の左足首は赤くなり、すでに腫れ上がっている。

立とうにも立ち上がれない。もうすぐ設備点検の時間だというのに、なんと不甲斐ないことか。

無理矢理立つことを決心するも、今度は膝の痛みが邪魔をする。どうやら膝も段差の角にぶつけたらしい。







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