サイコ医局長の検体

「面白いものが見れるんで僕も一緒に見ます。」

「……」


聞いたことは一切返ってこなかった。

しかも、さっきあれだけ助けを求めても出てこなかった癖に。今になって研究室を見に来るとは一体どういう神経をしているのか。

内心、眉をひそめる藤沢だが、表面上は作り笑いを保っていた。






一方、研究室では、大学病院総務課課長の、(かん)亜月(あづき)28歳が対処にあたっていた。

十三郷医局長に呼び出されて、ものの40秒で駆けつけたのだ。

十三郷には、「必ず僕が呼んだら1分以内に来るように」と言われていた。


貫の目の前では、井原教授の妻が、新戸部(にとべ)の白衣の襟をつかんでいる。

凛とした姿勢と、落ち着きを払った声で貫が空気を一変させる。


「井原教授の奥様、ごきげんよう。先週は学会総会の尽力を賜りましたこと、心よりお礼申し上げます。」


深々と、両手の指先をそろえてお辞儀をする。

教授の妻が、今にも新戸部を殴りそうだった拳を静止させた。


「い、いいえ! こちらこそ! いつも井原がお世話になっているわ!」

「それはそうと奥様。大変お美しい輝きの指輪をされておいでですね。そちらは0.3、いえ0.4カラットほどのダイヤだとお見受けします。」


スンっと間の抜けた表情をみせる井原教授の妻。新戸部も同じような顔をしている。


「え、ええ。よくわかったわね。これは0.4カラットのダイヤなの。主人が結婚記念日に買ってくれたものでね、」

「失礼ながら、教授秘書の新戸部の薬指には何もついておりません。もし井原教授と新戸部が不倫関係にあったとしても、こうも本命と義理の格差が歴然ならば、誰が見ても井原教授は奥様を一番大切に想っていると理解するものです。それではご納得いただけませんか?」

「な、なに言ってるの?! 主人が私を一番に愛してるのは当たり前よ! でもこの小娘が私から主人を奪おうとして!!」


鬼の形相になる妻に対し、至って表情を変えない貫。

単調な声色で話をすすめる。





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