サイコ医局長の検体

病棟の事務室に戻った貫亜月は、自席に置かれたタンブラーの中身を飲み干した。味はしなかった。

(嫌な汗かいた⋯⋯)

彼、十三郷から1日に内線がかかってくる回数は数しれず。

外来中でも平気で事務室まで声をかけに来る。

常に無表情、冷静沈着な亜月だが、実際は得体の知れない彼に恐れをなしていた。

亜月の身長は155センチ、しかし十三郷は190センチもある巨人だ。

さらに、国立明聖病院始まって以来の快挙を成し遂げた医師。

医師会医学賞を受賞したにもかかわらず、式典は欠席。功労者への挨拶は一切なかった。

しかも動画コンテンツのインタビューでは、「動画づくりはオーバードーズしている人間にしかできない芸当」だと問題発言をしたためお蔵入りに。

快挙というより暴挙であるが、とにかく十三郷遊欺という医師は、へりくだらない、型にはまらない。

自爆していた。

変人であるがゆえ、誰もやりたがりない医局長という最も多忙な役職を押し付けられている。

それくらい何を考えているか分からない男であり、しかも得体の知れない笑顔を貼り付けた巨人。

そんな相手に、やたらしつこく付きまとわれている。


いくら無表情の亜月でも、さすがに狂気を感じていたのだ。

(もうあの人に関わるのいやだな……。かといって無視すれば余計にしつこく絡まれるし。)

というよりも、彼とは関わらなければいけない決定的な理由があった。

なぜなら亜月は、彼の婚約者なのだ。

勝手に婚約を決めた祖父を何度も呪った。








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