サイコ医局長の検体
2.十三郷医局長の受難



心臓カテーテルアブレーション。通称心カテ。

カテーテルと呼ばれる細い管を血管から心臓へ入れ、心臓の中にある不整脈に高周波電流を流して焼いて治療する療法。

1回の手術で、総額250万円ほどかかるといわれている。

現在、十三郷(とみさと)医局長は、心臓血管外科や麻酔科とチームを組み、不整脈の根治を目指す患者のため、絶賛心カテ中である。

しかし院内で一番集中力を要する神聖な手術室だというのに、十三郷医局長は隣でぺらぺら喋るジジイに眉をひそめていた。



「それでね〜、医療ミスで訴えられれば記者会見で頭を下げて、家では妻にスマホを取り上げられて浮気調査される始末。私ってばどうしてこんないいように利用されてるんだろう。」

「右下のモニター、肺静脈から通電開始」

「おや随分と左心房(さしんぼう)が傷んでるねえ。ちなみに私の心もすり減る一方で痛みっぱなしだよ十三郷君。」


本日の執刀医、十三郷とそのチーム。そして院長である(かん)雪村(ゆきむら)51歳が特別に立ち会っていた。

普段院長が手術に立ち会うなどめったにないのだが。

つい最近、小児科で医療過誤があったと訴えられたため、ここ1ヶ月の手術は院長が立ち会うことが義務付けられているのだ。


「大学病院なんて白い巨塔というより黒い極東ですからねえ。人のいい貫院長は陥れられて院長にされたようなものだと思いますよ。お察しします。」

「そういう十三郷君だって他人事じゃないだろう? 医局長にされたとあれば教授候補に上がるんだから。」

「僕は教授になる気なんてさらさらありませんよ。」

「それなら開業医にでも逃げるつもりかね?」

「ええ。」

「ははは。君には無理だろう。患者が寄りつかない。しかも私の娘はあの通り能面だからね! 受付やっても愛想がなくて怖がられる一方だよ!」

「院長いい加減喋るのやめてくれませんかねえ? 手元が狂ってうっかり心臓止めたらどうしてくれるんです?」

「ちなみに私は白い巨乳に黒い乳頭が好きだよ。」


亜月の父親である貫院長は、手術中にも関わらず爆笑した。

相手が貫でなければ、患者が寝かされている手術台を蹴飛ばしているところだ。

患者は全身麻酔で夢の中だ。





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