サイコ医局長の検体
心カテの手術が終われば、十三郷は乱暴にゴム手袋をゴミ箱に叩き入れ、手術用ガウンを床に叩きつけた。
介助役の看護師は、肝を冷やしながらガウンを拾う。
十三郷の背中に向け「お、お疲れ様でした」と声を震わせた。
十三郷がこうも機嫌が悪いのは、なにも貫院長に邪魔をされたからではない。
処置後の十三郷はいつもこうなのである。
最大限の集中力と、一点の曇りもない繊細な処置。ただ疲れてイライラしているだけなのだ。
診療棟に戻ればすでに13時を過ぎていた。
ひと目のある食堂や外食が苦手な十三郷は、地下にあるコンビニでランチを買うことにした。
しかしコンビニに入れば、勤務8年目の看護師が猫なで声ですり寄ってきた。
「十三郷先生〜。今からお昼ですか? 良かったらご一緒しません?」
パスタサラダを持つ看護師が、十三郷の腕に絡みついて誘う。
十三郷を誘うこと自体どうかしているが、8年目の看護師ともなれば、珍奇な固有種にでも手を出してみたくなるというもの。
さすが、色々な人種の患者を相手にしてきただけのことはある。
「はあパスタですか。今僕、患者の左心房と右心房にカテーテル入れてきたばっかなんですよね。」
「お疲れ様です〜。手術大変でしたね。」
「パスタがカテーテルに見えるんで、僕と食べたいなら麺類やめてくれませんか。」
「もう十三郷先生〜! そのカテーテルギャグ、循環器にしか分かりませんって〜。」
ケラケラと楽しそうに笑う看護師を尻目に、十三郷は半ば真面目に嫌気が差していた。
なぜたった今患者の心臓に突っ込んだカテーテルと同じ、細くて長いものを見なければならないのか。
しかもこの看護師、それを自分の目の前で食べようというのだから嫌がらせの何ものでもない。
十三郷が栄養剤コーナーに行けば、腕に絡みついたままの看護師が、「私が元気にしてあげましょうか?」などと言う。
いっそ鼻からカテーテルを入れてやろうかと思った矢先、十三郷の目がキラキラと輝いた。
栄養剤を7本買い物かごに入れた貫亜月を見つけたのだ。
十三郷は看護師を引きずりながら、亜月の元まで駆け寄った。