クソ真面目なアイドルに、幼なじみの一途が重症です。
その日の放課後。
結衣と一緒に下駄箱へ向かっていた俺は、中庭の入り口で、見たくもない光景に出くわした。
『ももちゃーん、今日この後ウチ来ない? 親いないしさー』
『えっ、あ、今日はちょっと……帰らなきゃいけないから……』
ももと、例のチャラ男だ。
チャラ男はヘラヘラと笑いながら、ももの肩にベタベタと腕を回し、顔を極端に近づけている。
「…………」
俺は無意識に足を止め、その様子を遠目から睨みつけた。
ももは、明らかに嫌そうだった。
肩をすくめ、愛想笑いを浮かべながら、男の腕から微妙に距離を取ろうとしている。
(嫌なら嫌って、ハッキリ断れよ)
俺の奥歯が、ギリッと音を立てた。
嫌がっているのに、なぜあのチャラ男の腕を振り払わない?なぜされるがままに受け入れてる?
チャラ男の、馴れ馴れしくももの髪や肩に触れるあの手が、目障りだ。
今すぐあいつの腕を振り払って、ももをあの場所から引き剥がしてやりたい。
「暁くん?」
結衣が不思議そうに俺の視線の先を追う。
「あ、ももちゃんだ。彼氏さんと仲良いね」
「……仲良くなんて見えねえだろ。どう見ても嫌がってんじゃん」
俺は、自分でも驚くほど冷たく、低い声で吐き捨てていた。
「えっ……暁くん?」
結衣がビクッと肩を揺らしたのを見て、俺はハッと我に返った。
「あ……ごめん。何でもない。行こう」
俺は結衣の手を引き、逃げるようにその場を後にした。
中庭から背を向けても、背後から聞こえるチャラ男の甲高い笑い声が、耳にこびりついて離れない。
俺は結衣の手を握りながら、心の中で必死に自分に言い聞かせていた。
(俺の彼女は結衣で、結衣を大事にしている。)
(ももはただの幼なじみだ。あいつが誰と付き合おうが、あいつの勝手だ。俺には関係ない。)
そうだ、これは小さい頃から一緒にいた家族なようなももに対するただの「過保護な幼なじみ」としての義務感だ。
あんな危なっかしいバカを放っておいたら、いつか取り返しのつかないことになる。
だから心配しているだけだ。
チャラ男に腹が立つのも、あいつが流されていることにイラつくのも、ただの幼なじみとしての心配なんだ。
恋愛感情なんて、微塵もない。
そう思い込もうとすればするほど、自分の中の矛盾が軋みを上げる。
結衣と手を繋いでいる時。
結衣と笑い合っている時。
どうして俺の頭の中は、あのチャラ男に触られて困った顔をしていた「もも」のことでいっぱいになっているんだ?
「……クソッ」
俺は誰に聞こえない声で小さく悪態をついた。
ももが俺を避ければ避けるほど。
俺から離れて、得体の知れない男の隣で笑えば笑うほど。
自分でも制御できないほどの「苛立ち」と「独占欲」が、真っ黒な渦となって俺の心を支配していく。