クソ真面目なアイドルに、幼なじみの一途が重症です。

-数日後-

初めてのテストを目前に控え、私は宣言通り、暁の部屋で数学を教えてもらっていた。

「だから、この公式に当てはめればいいだけだって。さっきも言ったろ」

「うぅ……数字とアルファベットがゲシュタルト崩壊してきた……」


机に向かって横に並んで座り、シャーペンを握りしめてフリーズする私。

暁は呆れたように息を吐くと、私の手からひょいっとシャーペンを抜き取った。

「貸してみ。ここは、こうして展開するの」

暁がノートにスラスラと数式を書き込んでいく。
その過程を見ようとして、ふと顔を近づけた瞬間――。


(……ちっかぁ)

小さな机にぎゅうぎゅうと詰めて横並びに座っていた時点でもう近いのに、暁の手元を見ようとすれば、距離がほぼ0になってしまう。

今、暁が顔をこちらに向けたら、多分ちゅーできちゃうくらい。

自然と私の視線は、暁が説明してくれてる問題ではなく、0距離にいる暁へと向いてしまっていた。

伏し目がちの瞳から伸びる長いまつ毛。
スッと通った鼻筋。
たまに上下する喉仏。
ノートに文字を書き込む、骨ばって筋の浮き出た大きな手。
腕をまくったシャツから覗く、ガシッとした腕の厚み。
その姿から一気に、暁が「男子」という事を意識させられる。
それと同時に、
シャンプーの匂いなのか、それとも柔軟剤なのか。
いつもより近くで感じる暁の香りが鼻を突いてくる。

意識すればするほど、なぜか胸の奥がトクン、トクン、と大きく跳ねた。

「……で、最後がこうなる。分かった? ――ってもも?」
「っ、ひゃい!!」

暁が顔をこちらに向けた瞬間。
予想通り本当にちゅーできるくらいの距離に顔がきて、鼻と鼻が触れてしまい、思わず顔を横に背けた。

変な声と共に顔を背けた私を、暁がきょとんとした目で見つめる。

「お前、顔真っ赤。……顔近くて照れてたわけ?」

「ちっ、違う!いや違くないけど…っ!鼻当たったし!ちゅ、ちゅーしそうだったから…!!」

「はぁー?お前にちゅーするわけないだろ」

「私だって暁となんかちゅーしないもん!」

「ていうか、俺の説明ちゃんと聞いてた?」

「きっ、き聞いてたし! この数式でしょ!完璧!!」

私は慌ててノートとシャーペンを奪い返し、プリントに目を落とした。

やばい、やばい。落ち着け、私!

心臓がうるさいくらいバクバク言っている。

暁は「ほんとかよ」と怪しむように笑って、「じゃあ次の問題"完璧"に解けよ」と、意地悪い顔をして言ってきた。

(うぅぅぅ……私ばっかり…悔しい)

落ち着かない心臓の音に耳を塞ぎたくなりながら、これ以上暁に変な所を見せまいと、今は手元のプリントに書かれた問題を、必死に読み解くことしかできなかった。
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