無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 鈴川は前を向いたまま、歩調を緩めもしない。

 「なあ、加地」
 「はい」
 「仕事かどうかはな」

 少し間を持たせて淡々と続ける。

 「誰の顔を思い浮かべてたか、で決まるんだよ」

 心臓が、わずかに跳ねた。

 「熱心だったって言ったのは、作業のことじゃない。お前の目だ。さっきの倉庫のな」
 「な、なんの話をしてるんですか」
 「さあ?」

 核心を突くようなことを言っておきながら、最後の最後に鈴川は肩を上げ下げしてはぐらかした。
 鈴川がなにを言いたいのか、おおよその見当がついて動揺する。自分がそんなにわかりやすい人間だとは知らなかった。

 (だとしたら、寺崎さんにまでバレてる……?)

 四つも年下の学生に言い寄られても困ると、距離を置かれる可能性が浮上してきた。
 歩く速度は変わらないのに、足元の感覚だけが少しずれる。視線の置き場が定まらず、無意識に指先へ力が入った。

 「まぁそれはともかく、総務の仕事、板についてきたな」
 「……ありがとうございます」

 鈴川は歩調を緩め、並ぶ位置に戻ってくる。
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