無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 天音は机の上に袋を置きながら、ふと視線を上げた。
 部屋の隅、低い棚の上に、黒い布をかけられた小さなケージが置かれている。

 (……あ)

 一瞬だけ、体が硬直した。
 記憶の奥にペットショップの明るい照明と、フロアをゆっくり歩いてきた影が浮かぶ。

 「カメレオン」

 思わず零れた声に、幹人が気まずそうに目を伏せた。

 「あ、はい。フレックスです」

 布の端が少しだけめくれていて、その隙間から、ゆっくりと瞬きをする丸い目が覗いている。色は落ち着いた緑で、じっとこちらを見ているだけだ。動かない。
 天音は反射的に一歩、距離を取った。

 「普段は部屋の中に放したりもしてるんですけど、今日は一日出してなくて」

 苦手意識が先に立つはずなのに、意外とそうではなかった。

 「……そう」

 ケージに近づくことはしないまま、天音は小さく頷く。

 「元気そうでよかった」
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