無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 玄関で靴を履きながら、もう一度だけ振り返る。

 「なにかあったら、鈴川くんでも……誰でもいいから連絡して」
 「わかってます」

 ドアを開ける直前、幹人がもう一度言った。

 「本当にありがとうございました」

 深く下げられた頭に、「いいから」と短く返して、天音は部屋を出た。
 外に出た瞬間、ひんやりした空気が頬を撫でる。

 (下の名前で呼ばれたのはやっぱり気のせい、よね)

 思い出そうとすると、なぜか胸がざわつく。振り切るように階段を下り、天音は大急ぎで自宅へ向かった。
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