無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 玄関の鍵を、できるだけ音を立てないように回す。そう思った時点で、もう遅かった。

 「天音?」

 リビングから母、梢の声がして、ギクッと肩が跳ねる。

 「今、帰ってきたのよね?」
 「……うん」

 恐る恐る顔を出すと、すでに起きていた両親が揃ってこちらを見ていた。父の正信は新聞を広げたまま、梢はエプロン姿。完全に逃げ場のない構図だ。

 「朝帰りとは何事だ」

 正信が低く言う。

 「結婚前の娘が、朝帰りなんて……」

 梢は額に手を当てて嘆いた。
 天音は思わず姿勢を正す。自分でも信じられない気持ちだった。
 学生時代には門限を破ったこともない。飲み会があっても終電には余裕で間に合わせた。
 たった一度だけある恋愛経験でも、泊りがけで出かけたことはない。もちろん彼の部屋に泊まったことすらなかった。
 無難で堅実で、親に心配をかけない道を選び続けてきた。そんな自分が朝帰り……。

 「ち、違うの」

 慌てて言葉を繋ぐ。
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