無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 湯気の向こうで、昨日の夜がふっと蘇った。
 ガラガラの声、熱の残る額。眠っている間に呼ばれた気がした下の名前。

 (……ほんとに、なにやってるんだろう)

 髪を乾かし、着慣れた服に袖を通す。黒のハイケージニットにベージュのセンタープレス入りテーパードパンツ。鏡に映る自分はいつもと同じはずなのに、どこか落ち着かない。

 家を出るとき、梢が言った。

 「今日は無理しないのよ」

 頷いて答え、天音は足早に家を出た。
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