無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「昨日はほんとに偶然、寺崎に会っただけなんだよ。エントランスでたまたま」

 それから、少しだけ声を落とす。

 「で、正直に言うと……ああ、これは寺崎が行ったほうがいいなって思った」

 天音は眉をひそめる。

 「どういう意味?」
 「そのまんま」

 鈴川は照れもなく言った。

 「俺が様子見に行くより、あいつにとっては効くでしょ」
 「効く?」
 「薬的な? あいつには一番かと思ってさ」

 へらっと笑う。冗談めいた言い方なのに、心の奥がざわりと揺れる。

 「そういうのやめて」
 「本人には言ってないから。ま、ともかくあいつ、人に頼るの下手すぎるから」
 「それはわかる」
 「だから、たまには強制イベントも必要かなって。じゃ、そういうことで。ほんとサンキュ」

 冗談っぽく言い、手をひらりと振りながら鈴川が自分の部署へ戻っていくのを見送りながら、天音は鈴川が放った言葉を反芻する。

 『あいつには一番かと思ってさ』

 (それって……)

 考えかけて、天音は視線をモニターに戻した。

 (違う違う。あれは鈴川くんが勝手にそう思ってるだけ)

 天音にはお見合いが控えている。ただ会うだけにしろ、ほかに心を揺らしている場合ではないのだ。しかも、四つも年下の学生に。
 そう自分を言い含めている時点で、幹人に恋心を抱いていることは天音が一番よくわかっていた。
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