無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「自分でもびっくりしてる」
 《でしょ》
 「こんなこと初めてだから」
 《うん》

 理世は少し間を置いてから、落ち着いた声で言った。

 《お見合い、控えてるんだよね》
 「……うん」

 理世にはその話もしていた。天音らしい選択だねと言われたばかりだ。

 《じゃあ余計に、心が揺れてるの自覚しないと》

 ぐさりと刺さる。

 「揺れてないって言ったら、嘘になるけど……」
 《けど?》
 「どうする気もない」

 天音は、自分に言い聞かせるように言った。そもそも幹人のほうが遠慮したいだろう。

 「できないし」
 《できない、ね》

 理世はそれ以上追及せず、優しく続ける。

 《まあ、今日はちゃんと食べて。絶対疲れてるから》
 「うん、ありがと」
 《じゃ、今週末にでもゆっくり会って話そ》

 通話が切れ、静かになったスマホをテーブルに置く。天音はようやくひと口、おにぎりをかじった。
 味がしない。

 (ほんとにどうかしてる)

 そう思いながらもふと浮かぶのは、昨夜の幹人の寝顔だった。
 それを思い出してしまう自分に、小さく息を吐く。
 無難路線を外れた一歩は、思っているより深く踏み込んでしまっている気がしてならなかった。 
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