無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます

 その週の土曜日。天音は理世と、駅前の小さなイタリアンで昼食をとっていた。学生の頃からよく来ている店で、気取らない味と落ち着いた雰囲気が昔から好きだった。

 「久しぶりにゆっくり話せた気がする」

 デザートの皿を下げてもらいながら、理世が満足そうに言う。

 「ほんとだね」
 「まぁ、いろいろと悩みは尽きないだろうけど」

 理世が言いたいのは幹人の件だとすぐにわかる。天音は笑って応じたが、どこかうわの空だった。
 あれから、幹人からはきちんとお礼のメールが届いている。

 【先日は本当にありがとうございました。おかげでだいぶ回復しました】

 簡潔で丁寧すぎる文章だ。それに対して、天音も無難な返信をした。それ以上やりとりは続いていない。
 それでいい。そう思っているはずなのに、ふとした瞬間に思い出してしまう。
 会計を済ませ、店を出る。冬晴れの空の下、昼の街は思ったより人が多い。

 「あ、そういえばさ」

 理世がなにか言いかけた、そのときだった。
 少し先の歩道を、見覚えのある後ろ姿が横切った。
 ――加地くん。
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