無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
課題を仕上げたのは、三日後の昼前だった。
久しぶりに頭がきちんと回っている感覚がある。線を引き、寸法を整え、最後に全体を見直してから、ようやくデータを保存した。
(……終わった)
椅子にもたれて息を吐く。修了に向けた課題は、いつだって容赦がない。だが今日は、妙に達成感があった。
念のため教授にメールを送ると、ほどなく返事が返ってきた。
【研究室にいるから、おいで】
土曜日だというのに、研究室にはすでに数人の院生が集まっていた。同じように課題を終えたらしい顔ぶれだ。教授はコーヒー片手に、いつも通りの調子で言う。
「せっかくだし、軽く打ち上げするか」
そのひと言で空気が和らいだ。
買い出しはじゃんけんで決めることになり、負けたのは幹人と同級生の亜弥だった。
「私がビール係ね」
「了解」
亜弥の言葉に頷いて研究棟を出ると、冬の空気がすっと頬に触れた。
一月の晴れた昼下がり。雲ひとつない空は高く、陽射しだけが妙に明るい。吐く息は白く、コートの襟元から冷気が入り込むのに、日向に出ると少しだけ春を錯覚させる温もりがあった。