無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
翌週の月曜日、幹人は久しぶりに出社した。
エントランスを抜けると、だいぶ見慣れるようになったフロアの空気に背筋が伸びる。それほど間が空いたわけでもないのに、妙に時間が経ったように感じた。
今日は誰のもとで仕事をするか尋ねようと杉村のほうへ向かいながら、視線は自然とある方向に向く。
――いた。
天音はいつも通り、パソコンに向かって作業をしていた。横顔だけで、こちらには気づいていない。
(この前のお礼、もう一度ちゃんと言わないと)
杉村から指示を受けたあと、タイミングを見計らって声をかける。
「寺崎さん」
呼びかけると天音は一瞬だけ顔を上げ、すぐに小さく会釈をした。
「おはよう」
それだけだった。作業の手を止める気配もない。
「あ、あの……先日はありがとうございました」
改めて言うと、天音はようやくこちらを向いた。
「いえ。もう大丈夫そうね」
声は丁寧で、言葉遣いもいつも通りだ。なのに、どこか壁がある。
「はい、おかげさまで」