無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 そんなもの、考えないようにしてきた。選ばなかった可能性に目を向ければ、きりがなくなるから。
 だからいつも無難で正しくて、誰にも迷惑をかけないほうを選んできた。
 お見合いも、その延長だ。悪い話じゃない。条件も周囲の反応も、すべてが問題ない。

 それなのに――幹人の顔が否応なく浮かぶ。
 屈託のない笑み、時折年下には思えない頼もしい態度。そして元気になって出社してきたときの、あの安心した気持ち。
 あれは、ただの同情じゃない。気まぐれでもない。認めた瞬間なにかが壊れてしまいそうで、必死に押し込めてきた感情だ。

 もし、このままお見合いをして何事もなかったように日常に戻ったら、数年後、今日のことを思い出すことはあるだろうか。
 あのとき、もう少し素直になれたかもしれない、と。逃げずに向き合う選択もあったのだと。
 喉の奥がじりじりと熱くなってくる。
 杉村の言葉は背中を押すでも引き止めるでもない。ただ、天音自身に問いを返してきた。

 (私は、なにを後悔したくないんだろう)

 そっと息を吐き、冷めかけたコーヒーに口をつける。苦味がやけに強く感じられた。
< 180 / 251 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop