無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
退勤時刻が過ぎ、人の気配が少なくなった頃、天音はバッグを手に取り、フロアを出た。今日はペットショップに立ち寄る気にもなれない。業務が忙しいうえに、考えなければならないことがいっぱいあるせいだ。
エントランスを抜け、夕方の冷たい空気に触れた瞬間――
「寺崎さん!」
後ろから、少し息の乱れた声がした。
振り返ると、幹人がこちらへ駆け寄ってくる。普段は見せない必死な表情に、天音の心臓が大きく跳ねた。
「どうしたの?」
一瞬、言葉を探すように視線を揺らしてから、幹人は真っすぐこちらを見る。
「お見合いするって本当ですか」
「それ、どこで……」
言いかけて、言葉が詰まる。否定も肯定もできなかった。
その沈黙が答えだとわかっただろう。幹人は、ぎゅっと拳を握りしめる。
「そんなの、しないでください」
あまりに真っすぐな言葉に息を呑んだ。
「なんで、そんなこと」
問いかける声が、かすれる。