無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 天音は、そっと肩の力を抜いた。逃げるために選ぼうとしていた安全な道が、急に色褪せて見える。

 「私ね」

 声が、少し震える。

 「加地くんに元気になってもらえたら、それでいいって思ってた。それ以上を望むのは、欲張りだって」

 でも、と小さく息を吐く。

 「こうして追いかけてきてくれて、気持ちを伝えられて……それでもなにも感じないほど、大人じゃなかった」

 真っすぐに幹人を見る。後悔しないほうを選びたい。

 「私も、加地くんが好き」

 言葉にした瞬間、胸が熱くなる。長い間、押し込めていた感情が、やっと呼吸をはじめたようだった。
 幹人の目が、驚いたように見開かれる。

 「本当、ですか」
 「……うん」

 次の瞬間、信じられないものを見るように揺れて、そしてゆっくりと笑った。
 ふたりはしばらく黙ったまま立っていた。不思議と気まずさはない。

 「じゃあ」

 幹人が、少し照れたように言う。

 「俺たち……恋人、ですね」
 「そうね」

 選んだのは、無難じゃない道。でも、後悔しないほうだ。
 天音は、初めてそう思えた。
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