無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 断る理由はない。むしろ、どこか察しているような杉村の笑顔に、妙な安心感すら覚える。幹人とのことをきちんと報告しておきたい。

 店は会社から少し離れた、木の香りがほのかに残る年季の入った落ち着いた居酒屋だった。店内にはやわらかい照明が落ち、足音が吸い込まれるように静かだ。
 案内された個室の扉が開いたその瞬間、天音は目を瞬かせた。そこになぜか鈴川と幹人がいたのだ。
 一瞬、時間が止まる。

 「……え?」

 思わず声が漏れたのと同時に、幹人もこちらを見て固まっている。

 「寺崎さん?」
 「加地くん?」

 状況が飲み込めないまま視線を彷徨わせると、隣で杉村が楽しそうに笑った。

 「やっぱりこの反応よね」
 「成功だな」

 鈴川がグラスを持ち上げる。

 「え?」
 「どういう……?」

 天音と幹人が同時に口を開くと、杉村は肩をすくめた。

 「ふたりが無事に恋人同士になったお祝いよ」
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