無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「はいはい、ごちそうさま」
 「青春だなぁ」

 杉村と鈴川が、揃ってグラスを掲げる。
 天音は照れながらも、どこか満たされた気持ちで幹人を見た。名字ではなく、名前で呼ぶ距離。

 (ちゃんと、恋人なんだ)

 その事実が、ようやく実感できた瞬間だった。


 店を出る頃には、夜の空気がすっかり落ち着いていた。冬の匂いを含んだ風が、火照った頬をやさしく冷ます。

 「じゃあ、気をつけて――」

 そう言いかけた天音の言葉を、幹人が遮った。

 「送ります」
 「え?」
 「家、郊外なんですよね。途中まででも」

 迷いのない声だった。
 天音は一瞬迷ってから、小さく頷く。

 「ありがとう」

 並んで歩く夜道。駅へ向かう足音が、自然と揃う。
 改札を抜けて同じ電車に乗り込むと、幸い空いた座席がふたつ並んでいた。
 肩が触れないくらいの距離で座る。揺れに身を預けながら、天音は窓の外に流れる灯りを眺めていた。
 そのとき、そっと指先に温度が触れる。見れば、幹人がなにも言わずに天音の手を包み込んでいた。
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