無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「いつも通りリビングにいるよ。いつ来ても変わらない風景」
 「ほんっと相変わらずね、咲楽は」

 リビングに入るなり、母、梢が少し呆れたように言った。

 「鉄砲玉みたいに、家を出たらなかなか戻ってこないんだから」
 「ひどーい。ちゃんと帰ってきてるじゃない」

 咲楽は悪びれもせず、ソファに腰を下ろして足を組む。

 「気まぐれにやって来るのを〝帰ってきてる〟って言うのか」

 父の正信も新聞を畳みながら苦笑する。
 そのやり取りが妙に懐かしくて、天音はキッチンへ向かいながら肩の力を抜いた。


 夕飯は、梢の得意な煮魚と小鉢がいくつも並ぶ、いつも通りの食卓だった。
 咲楽が仕事の話をしたり、旅先での出来事を一方的に喋ったりして、食卓はにぎやかだ。箸が進み、会話がひと段落した頃、梢がふと思い出したように言った。

 「そういえば、咲楽」
 「ん?」
 「結婚の話、どうなったの?」

 そのひと言で、空気が一瞬だけ変わる。
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