無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 仕事にやりがいがあって、恋人がいて、自分の足で立っている。それだけで十分に満たされている。
 それでも、姉の結婚という現実が天音の中にある〝いつか〟を、否応なく現在へ引き寄せていた。
 少なくともこれまでの自分とは逸れはじめた今の自分。幹人と歩く今が幸せだと思う反面、漠然とした不安が芽生えたのも事実だ。

 結婚だけがすべてじゃない。そう言い聞かせることは、前よりもずっと簡単になった。
 それでもどうしたって、気にはなる。
 誕生日まであと三日。三十代という数字が、一年後に迫っているせいかもしれない。

 二十代前半の頃は、まだ先の話だと思っていた。いつかは、いつかでいい。そうやって先送りにしてきた結婚が、気づけば現実的な距離にある。
 幹人となら、どうだろう。一緒に暮らすことも家族になることも想像できなくはない。むしろ穏やかな光景が自然と浮かぶ。

 けれど同時に思う。彼はまだ走り出したばかりだ。独立して事務所を構えるという夢もある。未来を急かすようなことはしたくない。
 でも、自分の人生だって待ってはくれない。
 結婚をどうでもいいと切り捨てられるほど強くも、割り切れてもいない。その中間にいる自分が一番厄介だった。
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