無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
いよいよ誕生日がやって来た。
悩み多き二十九歳は、特段変わらない朝からはじまった。普段と違うのは、両親と姉から『誕生日おめでとう』と言われたことくらいだ。
幹人と付き合いはじめた頃に誕生日の話題になったが、たぶん彼は忘れている。昨夜も電話で軽く話したけれど、約束を取りつけてはこなかった。ほかに考えることがたくさんあるから仕方がないだろう。
(……とはいっても寂しいのは事実だよね)
ふぅと息を吐き、会社のエレベーターに大勢の人と乗り込んですぐ、幹人が隣に立った。
「おはようございます」
「おはよう」
目が合い、挨拶を交わす。お祝いのコメントは、ない。
その代わりと言ってはなんだが、彼が天音の手をさっと取り、指を絡めてきた。不意打ちのような感触に、思わず息を呑んだ。
周囲には同じフロアへ向かう社員たち。朝のエレベーターは静かで、誰もが眠そうな顔をしているぶん、ちょっとした動きでも目立つ。
(ちょ、ちょっと……)
振りほどくほどでもない。でも、気づかれたらどうするの、と心臓がうるさくなる。
俯いたまま幹人を見ると、彼はなに食わぬ顔で前を向いていた。
そのまま、耳元に顔を寄せてくる。
「今日、顔見た瞬間に思ったんですけど」