無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 「いや、ぜんぜん違う。なんていうか……いいよ、うん」

 坂口は、少し考えるように視線を泳がせてから、意味ありげに口角を上げた。

 「久しぶりにメシでも行かない?」

 そう言ってから、即座に「あ、急な誘いはノーサンキューだったよな」と訂正する。天音の性質をよく覚えているようだ。

 「明日とか明後日とかどう?」
 「私じゃ退屈なんでしょう?」
 「痛いとこ突くね。まだ怒ってる?」

 坂口に問われ、首を横に振る。そこまで執念深くない。

 「ならよかった。俺が楽しませれば問題ないってわかったから」
 「なにそれ」

 思わず笑う。年齢を重ねたことによる余裕の表れなのか。軽口を叩き合う空気は、どこか懐かしい。
 坂口はコーヒーをひと口飲み、ふっと息を吐く。

 「正直さ」

 何気ない調子のまま、視線を外した。

 「前は天音の良さ、ちゃんとわかってなかったかもって思うことがある」

 意外な言葉に、天音は箸を止める。
 坂口は天井を見上げるようにして、続けた。
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