無難に生きたいのに、全力すぎる彼が構ってきます
 困ったように笑いながらも、頬の熱は隠しきれない。天音は視線を外してから小さく肩をすくめた。

 「でも、幹人くんに言われるのは……嫌じゃない」

 天音がそう言うだけで、幹人は全部報われたみたいな顔をするからずるい。

 「最近、天音さんとゆっくりできていないから」

 声の調子を少しだけ落として、続ける。

 「今日は、ちゃんと祝わせてほしい」

 エレベーターの数字が一階を示す。
 扉が開く直前、ふたりの間に静けさが落ちた。
 人の気配はまばらで、夕方の光がエントランスに差し込んでいる。
 歩きだそうとした瞬間、幹人がさりげなく天音の手を取る。会社の中ではできない距離感。でも、もう誰も見ていない。

 「じゃあ、行きましょう」
 「どこに?」
 「内緒」

 いたずらっぽく笑う彼に連れて行かれたのは、駅から少し歩いた高層ビルの上階だった。
 エレベーターを降り、案内されたフレンチレストランは、ガラス張りの窓いっぱいに夜景が広がっている。店内は落ち着いた照明で、テーブルの上には小さなキャンドルが揺れていた。深いネイビーのカーペットと、木目の温かい壁が静かな高級感をつくり出している。
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